歌詞と旋律
作曲家が歌を作る時にまず直面するのが、「詞が先か、曲が先か」ということです。この場合の「曲」というのは、編曲まで施された完成形の楽曲全体ではなく、旋律・メロディーの創作です。つまり、歌詞が先にあってそれに旋律を付けるのか、それとも、旋律が先にあってそこに歌詞を当てはめていくのかということであり、クライアントから歌詞を提供されて「詞先」で始めることもあれば、歩いている時にふと良い旋律が思い浮かんで急いで譜面に起こし、作詞家に詞を当てはめてもらうこともあります。
出発点
旋律が先にあってそこに歌詞を当てはめていくという所謂「曲先(きょくせん)」の場合、作曲家のイマジネーションが出発点となります。歌詞がまだ存在しないのですから、作曲家の音楽的美学のみを出発の手立てとするしか方法がないのです。それゆえ、出来上がる歌は、作曲家寄りの、もしもこのような言い方が許されるなら「音楽的な歌」ということになります。それに対して、歌詞が先にあってそこに旋律を付けていくという所謂「詞先(しせん)」の場合、言葉寄りの作品となり、音楽は言葉の輪郭を支えて演出する側にまわります。
詞は旋律を持っている
言葉が連なって文章になる時、そこにはリズムと、音の高低によるラインが生まれ、それだけで「音楽」と言っても良いくらいの波動を形成します。つまり、言葉が積み重なって文章になるだけで、旋律の下書きが出来てしまうことになります。そこに作曲家が音を付けていき、情感や物語を演出します。